ONLINE 11-1 声をイメージする 1 <息と声>
専門的な話は抜きにしてイメージを使って声の説明をしてみようと思います。
あくまでイメージで実際とは少し違うのですが声を知る上でかなり有効なトレーニングです。
ぜひ読んで参考にして下さい。
まず最初に声は「息」と「声」の2つの要素で出来ています。
実際に私たちが出している声はこの2つが混じって出ているのですが、
ここでは単純に「息」と「声」に分けて考える事で非常に理解がしやすくなります。
さてまず「息」を理解しましょう。
「息」を水だとイメージしてみます。息を水だと考えると、その通り道は水道管です。
さらに口は蛇口で肺は水のタンクでお腹は水の量や圧力をコントロールする機関です。
水は水圧で勢いが変わります。声も同じで「圧力」をかけると勢いが変わります。
ここで息の通る管を硬い金属の管ではなくやわらかいホースにしてみます。
ホースの端に力をかけてみます。もちろん水が勢いよく出てきますね。
力がかかることで出口が小さくなり、その小さな面に一気に水が押し寄せてくるので
圧力が高くなって水の勢いが激しくなるわけです。
これを声に例えるとどんなふうになるでしょうか?
のどに力がかかるととホースと同様に水=息の勢いが強くなり声も一緒に強くなります。
実はこれが強い声やのど声の状態です。
のどに力を入れて声を出しても少しは息の勢いをコントロール出来るのですが
のどへの負担が大きくほぼお腹のコントロールはほとんどききません。
さらにのど以外の首や顎、肩、時には胸にも力がかかってしまいます。
出口が小さい為に肺もいつも強い圧力がかかった状態のため聞きづらい声です。。
それに比べてお腹で圧力や量をコントロールされた声は水の出る元でコントロールされ
通り道であるホースを自然に通って外に出ていきます。出る声も聞きやすく自然です。
身体の他の部分への負担はほとんどありません。ちなみにこれが腹式呼吸の原理です。
さて次に口。口は蛇口です。
のどより他への負担を少ない形で水の量や圧力を変える事が出来ます。
口の形や開き方、口の中の状態で息の量やスピードを多少コントロールする事も出来ます。
ただやはり力がかかりすぎるとのどと同様に顎や首に力が入ってしまいます。
どんなに深いところから息を持って来ても運ぶ途中でのどや口に力がかかると必要のない
勢いがついて強い声が出てしまうので注意して下さい。
少しはイメージ出来たでしょうか? 次は声です。
misuzu
ONLINE 11-2 声をイメージする 2 <息と声>
「声」をイメージしてみます。
両端を引っ張られている一本の糸を想像して下さい。
弦は張りが強いと高くなりゆるいと低い音になります。声も同じです。
楽器を弾いた事のある人はわかると思いますが、張りの強い弦を弾くと
手に強い抵抗があります。
逆に張りのゆるい弦は抵抗が少なく実感が薄いものです。
これは声を出している時との感覚とかなり似ています。
高い声を出している時は身体に力が入りやすく実感がありますが、低音を出している時は
支えのきかない感じというのでしょうかゆるい感じがあります。
さて声をこの弦にたとえて考えてみます。
まず弦=「声」は色を持っています。いわゆる「音色」=「tone」です。
声はその人の骨格や声帯の長さなど身体の持っている特徴でだいたいの色が決まっています。
だから体つきや顔が似ていると声も似ているのです。
弦の場合はその太さや素材で出る音や音量がある程度決まります。
例えば太い弦と細い弦、スティール弦とナイロン弦では感触も音の色も違います。
ただし声は訓練で筋肉や骨格のバランスを変える事が出来るので、ある程度は変わります。
ボイストレーニングはその人の持っている能力を引き出し、さらに磨くためのものです。
まずは自分の声を出せるようになることが目標。さらにその先もあります。
自分の声は世界にひとつ。そしてきちんとと訓練された声はとても魅力的です。
さて話を元にもどしましょう。
弦の種類でだいたいの音色は決まってしまうのですが実は弾き方でも大きく音色は変わります。
極端な言い方をすれば張りが強い弦でもやわらかい音を出す事が出来るのです。
加えて弦を張っているボディの状態でも音色は変わります。
つまり持って生まれたものだけでなくその使い方で出てくる音が違うのです。
そしてさらに身体の状態を整えたり変える事でも同様に音が変わります。さらにもうひとつ。
音を変えるばかりでなく弦やボディの持ち味を知ればその特性を生かす事が出来ます。
持ち味を活かす為にはその弦がどんな音色を持っているのかを知る必要があります。
太い弦なのに細く繊細な音を出そうとしたり細い弦なのに力強く弾いても望んだ音は出ません。
けれどこのように声は使い方次第で変化させたりその特性を生かす事が出来ます。
声は弦のように取り替えはききませんが使い方を知る事で
望んだ音に近づける事が出来るのです。
自分の持っているもの、つまり「自分の声」を知る事から始めましょう。
そしてその為には前の項で書いた通りのどの力を抜く事が必要です。
きちんとした発声を身につけると声は大きく変化します。ただそれには長い時間が必要です。
同時に身体の側面だけでなく精神的な側面の努力も必要です。
misuzu
ONLINE 11-3 声をイメージする 3 <息と声>
声は色を持っているといいましたが、息はどうでしょうか?
息は色を持たないので無色透明です。でもだからこそ声を支えたり声と混じったりするのです。
この無色透明の息と色を持った声が混じる事でまざまな声が生まれて来ます。
普段私達が聞いている声はこの息と声が混じったものです。
例えば息が多い声は息に包まれて声の芯はあまり外に出て来ません。
逆に声だけ出ている場合は響きが少ない為大きな声を出してしまいがちです。
さらに息の支えがありませんから、長持ちせず枯れやすい声になってしまいます。
きちんとした支えが無く声を出し続けているとポリープが出来たり、
片寄りが出来てハスキーな声になったりします。
本題に戻りましょう。
声は色を持っていると言いましたが息と混じるとその色はどうなるのでしょうか?
息が多く声の線が細い場合ぼーっとした声になります。
水をたくさん含ませた水彩絵の具の色つまり滲んだ色といった感じです。
息も声も細いと一般的な細い声です。逆に太い声は息が多く声も多い声ですが、
声自体の線が細いか太いか、その色はどんな色かでも息と混じった時の状態が変わります。
その組み合わせは無限大です。
余談になりますが声と息をきちんとコントロールする事は難しいのですが
出来ると色々な物まねが出来ます(笑)。
ところできれいな声は息と声の混じりの方のバランスのいい声の事です。
バランスがいいのでなめらかで耳に馴染みやすく聞きやすいので長時間耳にしても疲れません。
逆にバランスの悪い声は個性的ですが長く聞くのに向きません。
太い線と細い線が入り混じっていたり片寄りがある声なので角があり滑らかさがないのです。
きれいな声は線の太さも息との混じり方も片寄りがなく均等です。
ちなみにボイストレーニングはこの息と声を整え、
さらにバランスをとるつまりいい声にするというトレーニングなのですが、
その整えたりバランスをとるというやり方が個性を消すと思われがちです。
でも声の色はトレーニングによって大きく変質する事はありません。
ただ訓練を受けて整えられた声とそうでない声にはやはり違いがあります。
好みもありますが自らの目的によっては訓練を受けないという判断も必要だと思います。
ボイストレーナーの立場から言うと、年を取っても長く歌い続けたいとか、
安定した歌を歌いたいなら訓練を受ける方がいいと思います。
せめてのどを開いた状態の声や身体を使った声の状態を知る事は必要だと考えています。
さて本題に戻りましょう。少しは声と息のイメージが湧いて来ましたか?
次は重要な響きについてです。
misuzu
ONLINE 11-4 練習のヒント 4 <息と声>
響きはどういうシステムで起こるのでしょう?
今まで使ったイメージや組み合わせで考えてみましょう。
声は息と声で出来ていましたね。
主に響きは息の部分、特にふちのゆるみの部分が起こすものです。
円をイメージして下さい。そこには声と息が混じっています。
一番響く声は中心が濃く外に向かって徐々に薄くなり端で透明に近くなっています。
声は線だと言いましたがこの円のイメージは声を縦の断面図として捉えたものです。
色の濃さとは声を断面で捉えた時に声の線が点になったものです。
点も数が集まると濃い色となり、線が少ないと薄い色になります。
具体的には、水面にスポイトでインクを落とすと、
インクは落ちた最初の点からふちに向かって広がって行きますが
そんな状態だとイメージするとかなり近いと思います。
響きは空気を振動させる事によって起こるのですが色の濃い声だと空気と馴染みづらく、
息の少ない声は声自体を揺らす事は出来ても空気を揺らせずに共鳴を起こしづらいのです。
その点、息はもともと無色透明ですから空気と馴染みやすく空気を揺らしやすいのです。
そして中心から段々に色が変化する声は倍音を多く含み重ねて共鳴を起こしてよく響きます。
ビブラートの様に声自体を揺らす事によって響きをつくる事も出来ますが、
今回はあくまで自然に響く声の観点で考えると息の存在は重要です。
響きのシステムはあくまでイメージとして考えてもらって構わないのですが
実際の共鳴や倍音の起こるシステムとほとんど違いはありません。
共鳴や倍音の原理は科学的に解明されていますから、興味のある人は調べてみて下さい。)
ではどうやってこの響きやすいバランスをとる事が出来るのでしょうか。
すぐに出来る簡単な練習方法を2つお教えしましょう。
響きを手にしたいならまず息をコントロールする事です。
そのために有効な練習は英語の発音の練習です。英語は日本語と違い息を多く含む言語です。
きちんとした発音も一緒に手に入れたいならまずは聞く事から始めましょう。
英語の映画やニュース音楽等を流しておきます。
単語が聞きとれる様になって来たら一緒に声を出しましょう。
画面は見ずに音を聞きます。最初は正確な発音より雰囲気を真似しましょう。
根気は必要ですが英語の歌も歌えるようになるので一石二鳥です。
もう一つは裏声と低音を使う事です。実は裏声はほとんどが息です。
低音も裏声ほどではありませんが息が多く含まれています。
おまけに裏声も低音も無駄な力が入りづらいので息の訓練にはもってこいです。
裏声は最初頼り無く弱くか細いかもしれませんが、
あきらめずに出し続ける事でしっかり出せるようになります。これは男女共に有効な練習です。
裏声と低音の訓練は詳しく別のオンラインで説明しますのでそちらを読んで下さい。
さて長くなりましたが最後は声の芯について説明します。
misuzu
ONLINE 11-5 声をイメージする 5 <息と声>
声の芯。これは誰もが持ちたくて、でも誰もは持てないものです。
逆に言うと芯が入った声は仕事に使える特別な「声」です。
訓練する事でしか出来上がらないプロの声という事です。
声の縦の断面図である円のイメージを思い浮かべて下さい。
芯が入った状態というのは中心が濃くふちに向かって色が段々と薄くなるという、
よく響く声の状態そのものなのです。ただ一点注意したいのはその中心の濃さです。
中心があまり濃くなくても声は響きます。ふちが薄い色なら響きやすいのですから。
ここまで書くとおわかりだと思いますが重要なのは中心の濃い部分があるかどうかです。
この濃い部分が声の芯の正体なのです。この芯があると格段に言葉が聞きやすくなります。
マイクに声が入るのではなく言葉が入るのです。語る様に歌う事が出来る様になります。
軽いアクセントをつける事が出来る様になるのでリズムを出しやすくなります。
英語のアクセントを立ち上げる事も出来ます。
いいことばかりなのですが、実はこの声の芯が入るまでには時間がかかります。
こつとして技術的に習得する事も可能ですが
(世の中の多くはこの技術的に作られたもので歌われています)、
きちんとした発声の元に出来た声の芯は習得するまでは時間がかかりますが、
一度習得するとさまざまな応用が出来ます。
中心の濃さ、太さ、全体の太さ、息の勢い、スピード、
組み合わせは無限でわずかな違いで出る声が違って来ます。
また「芯」以外に声には「中心」というものがあります。
芯と中心は似ているのですが別のものです。
声の中心はあくまでその時の声の中心であり声が収まる場所と言った様なものです。
もう一方の芯は入れる事も入れない事も出来ます。
芯を入れずに雰囲気を出す事もありなのです。
声の中心は状態によって収まる所が変化します。
起き立ての身体はまだ暖まっていないので収まる所がなかったり低い位置で収まるものです。
逆に気持がハイだと高い位置で収まってしまいます。
ピッチはこの声の収まる位置で変化しますので気持や身体の状態で変化するというわけです。
通常は「芯」も「中心」もきちんと身体に入るのには時間がかかりますが、
これが入ると最初に書いた通りプロの声だというわけです。
骨格も筋肉も長い時間をかけると変化していきます。
でもたいていの場合その変化の前に努力を止めてしまいます。
それくらい長い時間がかかるのです。それでも別人の様には変化しません。
赤が青になる事はなく赤い筋肉と白い筋肉の両方の力を持った中間の筋肉に変化するのです。
その筋肉は声にも身体にも大きな変化をもたらします。
そして変化した筋肉は一生ものなのです。
声も身体も生まれた時にかなりの部分の能力が決まっていますが、
訓練して整える事によってその能力を最大限に引き出したり、
さらに訓練する事でその根幹を変化させる事が出来るのです。
どこまで進むかは自由。全ては興味から。あなたはどこまで行きますか?
misuzu